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2018年1月28日日曜日

TSONTS-24 高山善行(2005)を何故批判するのか(4) 素人と専門家

Q4. 一介の素人に過ぎないあなたが何故専門家の高山善行氏を批判するのですか。
A4. 最初に確認しておきます。私は高山善行氏が書いた論文を批判しているのであって、高山善行氏の人格を批判してはいません。対象は高山善行(2005)という論文です。

論文の価値は誰が書いたかで決まりません。何が書いてあるかです。ニュートンが言おうとアインシュタインが言おうと正しいことは正しく、間違いは間違いです。だから専門家が書いたとか言ったとかは内容の評価に無関係です。

以上は科学的に正しい説明です。理系の学生なら教養課程から叩き込まれて身体に染み付いた考えです。法学や経済学も基本的な考えは同じです。だから、そもそも理系や法律や経済の人たちからそのような質問は出てきません。

そのような質問をするのは文学部の卒業生、人文系の人に限られます。そして、彼らは科学的に正しい説明に納得しません。人文系の人たちには別な説明をしないとなりません。

専門家とは何ですか。専門家の認定は誰が行なうのですか。高山善行氏は愛媛大学で国文学を専攻しました。愛媛大学が文学士(死語?)と認定しました。高山氏は文学の専門家と言えるでしょう。

しかし論文を書くということについて専門家でしょうか。高山善行(2005)に「本稿では演繹的方法を用いる」(第2.1節)とあり、AbstractにThis paper ... based on a deductive method.とあります。もしも理系の学生が高山善行(2005)を書いて、そこに演繹的方法を用いたとか、based on a deductive methodと書いたならば、指導教官から大目玉を食らうでしょう。論文を書くための基本的な論理を理解していないからです。

高山氏は高山善行(2005)を書いた時点では論文を書くことについて専門家とはとても言えません。専門家でないことは演繹の意味の誤解で十分ですが、他にも、データの整理の仕方や先行文献の引用の仕方から、論文を書く上での基本的な作法を心得ていないことがわかります。論文というのは関連する文献を調べ、類似した文献があるなら引用して違いを説明する義務があります。高山善行(2014)でも高山善行(2005)を先駆的論文と自賛しています。とすると、高山善行(2014)を書いた時点でも専門家とは言えません。

高山善行氏はmodalityの専門家でしょうか。ホピ語をevidentialityの例としてあげたことから、Frank Palmer(2001)を引用しながらも読んでいないことが明らかになりました。また同時にmoodやmodalityの基本的な意味を理解していないことも明らかになりました。このことは前回の高山善行(2005)を何故批判するのか(3)に書きました。

大学の国文科では国語学と国文学の両方を教えられています。前者は言語学という社会科学あるいは自然科学の一分野であり、理性と論理に基きまます。後者は広義の文学観賞であり、感性が重んじられます。一人の人が両方の専門家でありえなくはありません。しかし国語学の論文がしばしば非論理的な推論に基くのは、論理(logic)と修辞(rhetoric)が混同されたためではないでしょうか。

萬葉学会のある人が「理系の研究では仮説を検証して、矛盾がなければ、一つの仮説として成り立つのではないかと思いますが、ことばの場合は、他の形式との比較と差異の検証が必要になります。」と反科学的なことを平気で述べたので驚きました。たしかに論理的にそうかもしれないけれど、感覚的に信用できない。そういうことを学問の場で口にすること自体信じられません。もしも信用できないなら、どこかに間違いがあるのです。論理的に正しいが間違いであるということはあり得ません。

言い忘れました。私も論文を書き、国際的な雑誌に受理されています。その点では十分に専門家のつもりです。査読の経験もあります。言語学に関して素人かもしれません。しかしそれは高山善行氏も同じです。

いつものおまじないを書いておきます。こういう常識をわざわざ書かなくていけないのも情けなくはあります。

「公表された作品については、みる人ぜんぶが自由に批評する権利をもつ。どんなにこきおろされても、さまたげることはできないんだ。それがいやなら、だれにもみせないことだ。」

藤本弘(藤子・F・不二雄)氏の「エスパー魔美」からの引用である。「法華狼の日記」さんのサイトに詳細な解説とそれに対する読者の反論と議論がある。セリフに漢字が少ないことから窺えるように、この漫画は小中学生を読者と想定したものである。自分の論文が批判されて怒っていたら理系の研究者はやっていられない。相互批判は学問の共同体の当然の権利であり、それが学問を発展させるのである。この当然すぎる常識を萬葉学者たちが受け入れてくれることを祈る。

※ このブログの記事のことは萬葉学会にメールして以下の伝言を高山善行氏に伝えるようお願いしました。宛先には萬葉学会編集委員長の関西大学の乾善彦氏も入れてあります。ですから必ず伝わっていることと思います。伝言の部分を再掲します。


高山善行殿

高山善行(2005) 「助動詞「む」の連体用法について」 『日本語の研究』  1(4), 1-15, 2005の問題点を次の記事で論じています。

高山善行(2005)の問題点(1) 演繹でない推論
https://introductiontooj.blogspot.jp/2017/11/to-sue-or-not-to-sue-2.html

高山善行(2005)の問題点(2) データの整理が不適切である
https://introductiontooj.blogspot.jp/2017/11/to-sue-or-not-to-sue-3-20052.html

高山善行(2005)の問題点(1再) 演繹でない推論(つづき)
https://introductiontooj.blogspot.jp/2017/11/to-sue-or-not-to-sue-4-20051.html

高山善行(2005)の問題点(3) モダリティの理解不足
https://introductiontooj.blogspot.jp/2017/11/to-sue-or-not-to-sue-5-20053.html

高山善行(2005)の問題点(4) 主観と客観の混交
https://introductiontooj.blogspot.jp/2017/11/to-sue-or-not-to-sue-6-20054.html

今後も継続する予定です。上記記事並びにその継続記事に対して意見があればコメントまたはメールにて連絡をお願いします。



引用文献
山田孝雄(1908)『日本文法論』(宝文館)
山田孝雄(1936)『日本文法概論』(宝文館)
Reichenbach, Hans (1951) The Rise of Scientific Philosophy.
Popper, Karl (1959) The Logic of Scientific Discovery.
Popper, Karl (1972) Objective Knowledge: An Evolutionary Approach.
野崎昭弘(1980)『逆接の論理学』(中公新書)
北原保雄(1984)『文法的に考える』(大修館書店)
和田明美(1994)『古代日本語の助動詞の研究ー「む」の系統を中心とするー』(風間書房)
Palmer, Frank R. (1979) Modality and the English Modals.  飯島周訳『英語の法助動詞』(桐原書店)
Palmer, Frank R. (1990) Modality and the English Modals. 2nd ed.
村上陽一郎(1994)『科学者とは何か』(新潮社)
Palmer, Frank R. (2001) Mood and Modality, 2nd Edition.
高山善行(2002)『日本語モダリティの史的研究』(ひつじ書房)
安田尚道(2003) 「石塚龍麿と橋本進吉--上代特殊仮名遣の研究史を再検討する」 『国語学』 54(2), p1-14, 2003-04-01
山本淳(2003)「仮定・婉曲とされる古典語推量辞「む」の連体形」 山形県立米沢女子短期大学紀要 38, 47-62, 2003-06-30
高山善行(2005)「助動詞「む」の連体用法について」 『日本語の研究』  1(4), p1-15, 2005
Priest, Graham (2008) An Introduction to Non-Classical Logic, Oxford University Press.
Cruse, Alan (2011) Meaning in Language: An Introduction to Semantics and Pragmatics (Oxford Textbooks in Linguistics) Oxford University Press. 
高山善行(2011)「述部の構造」 金水敏ら(2011)『文法史』 (岩波書店)の第2章
高山善行(2014)「古代語のモダリティ」 澤田治美編(2014)『モダリティ 1』 (ひつじ書房)に収録
高山善行(2016)「中古語における疑問文とモダリティ形式の関係」 『国語と国文学』 第93巻5号 p29-41


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