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2017年1月28日土曜日

ク語法の真実 その4 「言はく」は「言ふこと」か 結論

 ク語法を「連体形+アク」と考え、そのアクを「はっきりと知覚される」という意味の四段動詞の終止形や連体形と仮定して万葉集、記紀歌謡、続日本紀宣命を解釈できることが示された。本稿の仮説が正しいとすれば、次のことが言える。

1、ク語法は用言の体言化でなく、用言の意味が「はっきりと知覚される」「明らかである」状態を表わす語法である。

2、従来詠嘆とされてきた「なくに」や「なけなくに」「ざらなくに」は相手の誤解を解くための発話である。

3、過去の状態や動作の体言化とされてきた「しく」はその状態や動作の記憶が蘇える意味である。

4、形容詞のク語法はその形容詞の意味が強く知覚されること、実感されることである。

5、「まく欲り」「まく欲し」の上接語に「見る」が多い理由が合理的に説明される。

6、重複とされてきた「言はく…言ふ」の「言はく」はその意味が「言うことには」でなく、言う行為や伝達される内容が明らかになることや明らかであることを示す。

 本稿の仮説による新しい解釈は上代人の伝えたかった意味に多少は近付くものであると確信する。


註1 動詞の自他の交替に関しては諸説があるが、解決を見ない。様々な言語に生ずる現象であることだけは確かである。

註2 金田一春彦1955の「既然態」を「既然相」と言い替えた。Comrie 1976は既然相を相に含めないが、それが絶対とは言えない。


(2016年9月19日付の郵便で萬葉学会に投稿した論文の原稿は以上)

 最後に重要な注意点があります。ネットは著作権を放棄したと考える人もいるようですが、それは違います。また、著作権が放棄されたものならば無断引用は可能と考える人もいるようですが、それも違います。その点、十分にご注意ください。本ブログのすべての記事および本稿の著作権は著者である江部忠行が保有するものです。殆どの人にこのような注意書きが不要なのですが、ほんの僅かな人がいるために書かなくてはなりません。まあ、そういう裁判を起こせばこの研究が注目されるかもしれないというメリットはあります。 


参考文献
Aston 1877 A grammar of the Japanese written language, 2nd ed. (古田東朔1981による)
Aston 1904 A grammar of the Japanese written language, 3rd ed. (カリフォルニア大学のサイトで閲覧)
有坂秀世1940 「シル(知)とミル(轉)の考」 『国語と国文学』 『国語音韻史の研究 増補新版』(1957 三省堂)に収録
有坂秀世1944 「国語にあらはれる1種の母音交替について」 『国語音韻史の研究』 (明世堂) 『国語音韻史の研究 増補新版』(1957年 三省堂)に収録
金田一春彦1950 「国語動詞の一分類」 『言語研究』(名古屋大学) 15     『日本語動詞のアスペクト』(1976 むぎ書房)に収録
金田一春彦1955 「日本語動詞のテンスとアスペクト」 『名大文学部研究論集』(名古屋大学) 10 文学 4 『日本語動詞のアスペクト』(1976 むぎ書房)に収録
大野晋1955 「万葉時代の音韻」『万葉集大成 6言語編』(1955 平凡社)
大野晋1957 「校注の覚え書」 『日本古典文学大系 万葉集1』(1957 岩波書店)
北條正子1973 『品詞別日本文法講座 10 品詞論の周辺』 (1973 明治書院)
井手至1964 「ク語法(加行延言)アクの説は悪説か」 『国文学 解釈と鑑賞』 29年11号
井手至1965 「万葉集のク語法」 『人文研究』 16(3)大阪市立大学
木下正俊1972 「なくに覚書」 『万葉集研究 第1集』(1972 縞書房)
Bernard Comrie 1976, Aspect, Cambridge University Press
古田東朔1981 「外の人々から見たク語法」 『香椎潟』 26 福岡女子大学山田小枝1984 『アスペクト論』(三修社)
日本国語大辞典 第2版(2001 小学館)
山口佳紀2009 「家持歌『悲しけくここに思ひ出』考」 『美夫君志』 79号 『古代日本語史論研究』(2011 風間書房)に収録
金水敏2011 『文法史』(2011 岩波書店)
小田勝2015 『古典文法総覧』(2015 和泉書院)

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